SSブログ

書けよ、秋川! の話 [小説のこと]

面白い話を書けばいいだけ。

ちょっと待て、それでは話が終わってしまう!
そういうことではなくて、いやそうなんだけど
そうじゃなくて……
と、限りなく歯切れの悪い話を繰り返す私。
こんなことを考えたのにはわけがある。

雑誌が売れない。
売れないどころかどんどん廃刊されていく。
そうでなくても電子化されていく。
その結果、何が起こるかというと
専業の物書きがどんどん減っていくのである。
それはもうびっくりするほど直線的な結論らしい。

ネット全盛時代が到来して
知りたいことは何でも目の前のお利口さんな箱に聞く
というのが当たり前となった。
知識のみならず、娯楽もしかり。
ネットの海を漂えば、小説も漫画も読み放題。
無料あるいは有料にしても、紙媒体より遙かに廉価
なおかつ更新速度も速い。
もちろん玉石混淆ではあるけれど、
世の中玉よりも石が好きで堪らぬ、という人がいることは確か。
さもなければ秋川滝美が存在できるわけがない。
かくして人々は書店に足を運ばなくなり
月々発行される雑誌を手に取る人は激減
雑誌は相次いで廃刊し、物書きは原稿を載せる場所がなくなる。
やむなく書き下ろしで発表しても思うように売れない。
出版不況が底を打つどころか、もうどこに底があるかもわからない状況。
これではひとにぎりのベストセラー作家以外は生きていけない。

これはとある編集者の方に伺った話だが
今までは雑誌に載せて、単行本にまとめ、それを文庫化するという
流れがなんとなくあったのだそうだ。(例外はある)
だから、どれだけ売れなくても物書きが収入を得る機会は三度あった。
けれど雑誌がなくなってしまうと、まずは原稿料が発生しない。
書き下ろしで単行本を出せば、うまくすれば文庫にすることもあるけれど
昨今、書き下ろし文庫のレーベルが増えてきている。
文庫がどれだけ売れたところで単行本を出し直すことはないから
収入の機会はたったの一度ということになってしまう。
ばんばん増刷がかかる本なら問題ないのだろうが、
このご時世、それも望めない……

これでは作家さんは到底食っていけない、と編集者さんは嘆く。
それどころか、自分たちの仕事までなくなってしまう、と……
どういうことかと首を傾げた私に、編集者さんは説明してくれた。
原稿をチェックするのが自分たちの仕事だ。
同じ原稿であっても雑誌、単行本、文庫本と発刊される度に
頭から読み直してチェックする。
いきなり文庫書き下ろしとなったら仕事は三分の一になる。
作業量が減るだけならばいいのだろうけれど
結局人手が余ってリストラが始まりかねない。
会社ごと潰れる可能性だってある。
そうなったら、自分はどうなるんだろう……

そうだよなあ……
と思わず大きく頷いてしまった。
変な言い方をすれば、物書きはいろいろな版元と仕事をするから
ひとつの会社が潰れたとしても他で書く可能性はある。
刊行に至らなかった原稿を他社から出すことだってあるほどだ。
執筆マシーンとかしてがりがり書けば何とか生きていけるだろう
だが編集者さんたちは会社員だ。
会社が潰れたらそれっきりなのだ。
不安にならないわけがない。

この話をしてくれたのはこの道何十年、
しかも誰もが知っている大きな会社のベテラン編集者さんだ。
会社の先行きどころか、リストラすらも無縁に見える。
それなのにこんな不安を抱えてしまうのだ。
これはもう出版不況は行くところまで行っているなとしか思えない。

「困ったもんですねえ……」
「どうしたら良いんでしょうねえ……」

そんな答えの出ない会話が繰り返される。

物書きと編集者さんの見解はいつも同じ

「良い本を作りたい」

売れる本が必ず良い本でもなければ
良い本が売れる本とも限らない。
結局、売れる本と良い本の狭間でもだえ苦しむ。

それでも、書き続けるしかない。
この本がだめでも、次はきっと……
それを信じて本を作るしかない。

秋川さん、書かなきゃだめです
たとえ売れなくて、これはちょっとなー
と思われるものがあっても
へこたれずにどんどん書く。
これはちょっと、と思うもののあとに
これはいい!という作品が来ることはいくらでもある
だから、書かなきゃだめです。

この道何十年、熟練の編集者さんは
しみじみとそんなことを呟いた。

書けよ 秋川
駄作連発でもいつかは当たる日が来るかもしれない
めげずに頑張れ

つまりこういうことだと解釈して
本日も黙々とパソコンで文字を打つ。
はい、駄作連発は得意です。
書くスピードには定評があります。
めげやすいのは私の欠点ではあるけれど
とにかく頑張ります!

と、心の中で敬礼しつつ(リアルにやるのは馬鹿すぎる)
私はホームに入ってきた電車に駆け込んだ。
直後「秋川さん、そっちは東京行きです!」という声。
おーまいが-!
我が家は東京とは反対だ! 編集者さんありがとう!
かくして私は無事に自宅方面に向かう電車に乗り込み
照れ笑いとともに帰宅したのであった。




人気ブログランキングへ




nice!(5)  コメント(5)  トラックバック(0) 

nice! 5

コメント 5

ゆうのすけ

私は手元に欲しいものが 形として残らないと嫌なんですよね。
昨今は 音楽も配信販売がかなりのシェアを持ってしまったのですが
アナログレコード、CDを身近にしてきた私は 携帯電話よりも小さな箱に入ったそれは 全く興味が無いんですね。歌詞カードやジャケットを見て更に いろんな想像をしたり 音だけをお金を出して買うのは かすみを食べて生きているようで感動が全くない。書籍や雑誌に於いても同じなんですよね。カバーがあって 挿絵や写真があって 印刷されたインクや紙の香りがあってひとつの作品になったパッケージ。手に取った喜びは 言葉には表せない感動と有難さを感じるんですよね。それがひらひらしたカタログやパンフレットであっても。^^

秋の気配を感じるようになって もうひと月巡ってくると今年もアニヴァーサリー月間ですね。3年前の秋 否 厳密には処女作を作成されている頃から あきかわ~るどを執筆され続けて来られていることは凄いことなんだなと感じます。好きなだけでは続けられないですものね。最近思うんですよ!作品が好きと言う以上に 秋川さんのブランドが楽しみであると言うことに気付く私なのです。☆(あ!プレッシャーではないですよ!^^;作品の活字から このブログのような 秋川さんの語り口調を感じるような気がするのです。上手く表現出来ませんが 子供が寝つくまで読み聞かせる物語のような。。。☆)
by ゆうのすけ (2015-09-04 22:48) 

NONNONオヤジ

「ひとり出版社という働き方」という本が出てますよね。
ぼくはまだ読んでませんが、ちょっと興味を惹かれています。
作家さん自身が出版社になるということでしょうか。
自分の書いた作品を自分でダウンロード販売して、
自分で集金まで行うシステムができれば丸儲けですよね。
商品の「メーカー直販」みたいなものですね。
昔、アダルト小説のジャンルでそれに近いことをして、
年間200万円くらい稼いだ、という方がいらっしゃいました。
IT関連のスキルも必要になって来るので大変だとは思いますが、
長く続く出版不況を乗り切るには、そういう発想の転換もありだと思います。
翻訳書の場合は原作の出版元との関係があるので、「ひとり出版社」は
難しいと思いますが。

by NONNONオヤジ (2015-09-05 22:17) 

足立sunny

書いてください。
そのうち、違う分野のモノも書きたくなるかもしれません。
時代物、剣豪モノ、好き。
by 足立sunny (2015-09-08 08:19) 

HCのS

PCの普及と共にあらゆる業種の構造に変化が起きました。
合理化の下PCの役割は不可欠なものとなりましたが一方で雇用にも重大な影響を与えるようになりました。しかも最近では思考の領域まで行うコンピュータも開発が進み、やがて普及すればコンピュータが作品を創る時期も遠からず実現するのかな。その場合著作権は?印税の扱いは?とか要らぬ妄想をしてしまいます。しかもPCが創った作品が芥〇賞なんて受賞したらそのPCにプレミア付いたりしてオクに出し… いや出さないか。
でもオリンピックエンブレムみたいな事が多発するのかな。
創造する作品は人間が持てる全てを注ぐからこそ血の通った作品になり感動を与えることができるのですよ。
いくら出来るようになったからとコンピューター任せにして血の通った作品なんか出来る訳が無い。
でも、どんなものが出来るのか見てみたい気もする…
by HCのS (2015-09-08 21:30) 

秋川滝美

ゆうのすけさん

そうですよね! ジャケットや帯まで含めての一作品ですよね!
そして見たいときにいつでも手に取れてこそ……です!
こういう感覚は古いと言われるのかもしれませんが
ゆうのすけさんやわたしのような人間は一定数いると思います。
勇気づけられました、ありがとうございます。

そういえばもうすぐデビュー三年になりますね。
記念出版で十分だと思っていたのに
まだ生きながらえていることにびっくりです。
それもこれもゆうのすけさんを初めとする皆様のおかげです
これからのよろしくお願い致します。(拝礼)

NONNONオヤジさん

ひとり出版社……
私には絶対に無理です。
誤字、誤記は当たり前
書きっぱなしで脈略のないストーリー
見分けの付かないキャラ……
どれをとっても編集・校正あってこそ、と思います。
流通力という観点からしてもう……
でも自費出版の一形態としてならありかな……
私小説なんかをひっそりとひとり出版社で作って
げひひ……なんて抱きしめながら儚くなっていきたいものです。

足立sunnyさん

剣豪、時代小説には大御所がたくさんいらっしゃいます。
私ごときがつけいる隙はございません。
というか、読むのは好きですが書く気にはなれません。
時代考証とか考えただけでもうんざりするのです。

HCのSさん

コンピューターの自動執筆プログラムで書かれた小説
と謳われた作品を読んだことがありますが
正直、面白いとは思えませんでした。
人の心を打つ作品を作るのは大変難しいですが
そのためにはやはり人の心が必要なのだと思います。
まあ、コンピューター任せを認めたら物書きはいらなくなるので
断固として反対意見を述べ続けるしかありませんけど(苦笑)


by 秋川滝美 (2015-09-12 11:50) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0